
「AWS継続的セキュリティ実践ガイド ログの収集/分析による監視体制の構築」という書籍を読みました。
AWSのセキュリティ対策やログの活用方法などが体系的にまとまっており、非常に良い書籍でした。
本記事では、書籍の概要と感想などを書かせていただきます。
本書の概要
本書は、AWS環境における継続的なセキュリティの維持と強化を目的とした、ログ収集と分析の実践的ノウハウを体系的に解説する一冊です。
CloudTrail、Config、GuardDutyやSecurity Hubといった各種セキュリティサービスを使ったログの収集から、それらをOpenSearch Serviceなどの分析基盤に集約し、インサイトを得るまでの一連の流れが丁寧に説明されています。
単なるサービスの使い方に留まらず、システム運用におけるセキュリティ監視のあり方や、継続的セキュリティを実現するためのアプローチにも踏み込んでおり、AWSのベストプラクティスに基づいたセキュリティ設計にフォーカスした、実践的な内容となっています。
本書の構成は以下の通りです。
- Chapter 1 継続的セキュリティとは
- Chapter 2 継続的監視に必要なログとは
- Chapter 3 セキュリティにおけるログ活用方法
- Chapter 4 AWSサービスによる継続的監視
- Chapter 5 AWSによるセキュリティの検出結果
- Chapter 6 セキュリティインシデント調査
本書のおすすめポイント
体系的なセキュリティログ基盤の構築方法を学べる
AWSでのセキュリティ対策を実施する際に、「とりあえずCloudTrailを有効にする」、「S3にログを蓄積しておく」といった断片的な対応になりがちです。
それだけでは、「どこに異常があるか」、「どのように可視化し、通知するか」が分からず、実際のインシデント対応には結び付きません。
本書ではCloudTrail、Config、GuardDuty、Security Hubなどの各種サービスから出力されるログを、どのように収集し、どのような形式で統合し、OpenSearch Serviceを用いて可視化・分析・アラートへとつなげるかという、一連のプロセスが章を追って丁寧に解説されています。
さらに、ログの収集や保存方法のパターン、マルチアカウント構成におけるログの集約など、現場で実装しようとしたときに悩みがちな設計上のポイントも網羅されており、「設計して終わり」ではなく「運用まで見据えた設計」を学ぶことができます。
こうした体系的な視点を持てることで、「今の自分たちの監視体制はどこに課題があるか」、「この設計を将来的にどう拡張すべきか」といった、現場目線の気づきが得られるのは非常に実践的です。
単なるHow-to本ではなく、アーキテクト視点でも読める構成になっている点が、本書の大きな魅力のひとつです。
各セキュリティサービスのフォーマットを学べる
AWSにおけるセキュリティログの活用を進める際、多くの人が直面するのが、各種ログの複雑さや解釈の難しさという課題です。
CloudTrail、Config、GuardDuty、Security Hubなどのサービスは、JSON形式のログを出力しており、何がどのフィールドに含まれているのか、どれをどう可視化・フィルタすればいいのか、初心者には非常にわかりにくいポイントです。
本書では、この点を丁寧に解消してくれる構成になっており、主要なセキュリティログの構造や、具体的に注目すべきフィールドについてまとまった形で解説されています。
たとえば、CloudTrailのeventNameやuserIdentity.typeといった定番の項目から、Security HubのFindingに含まれるSeverityやTypesなど、実際に活用する上で「ここを見ればいい」と分かる説明が多数登場します。
さらに嬉しいのが、ログを可視化する際に、それぞれのログに応じた可視化の手法やダッシュボードの例も紹介されている点です。
ログが「取れている」だけで満足せず、「見て使える」状態にするには、ログフォーマットの理解が不可欠であり、本書はその橋渡しとして非常に頼れる存在です。
また、ログの保存先による料金の違いや、Athena + QuickSight、OpenSearch Service の使い分けやも丁寧に解説されており、分析基盤の運用を意識した内容になっています。
このように、ログフォーマットの理解から活用までがひとつながりで解説されている点は、類書にあまり見られない、本書ならではの大きな魅力です。
特に、セキュリティログをSIEMや社内分析基盤に連携させようと考えている企業・チームにとっては、「フォーマットが整理されているだけで、こんなに設計が楽になるのか」と感じられるはずです。
セキュリティインシデントの具体的なリスクシナリオとその調査方法の解説が充実している
本書の最後には、具体的なリスクシナリオをもとに、どのセキュリティサービスを使って、どのように調査・分析を進めるかを解説しています。
抽象的な概念や機能説明だけでなく、「このような状況が起きたら、何を見るべきか」、「どうやって追跡・特定するか」といった、インシデント対応の実務フローを具体的にイメージできるように解説しています。
リスクシナリオとしては、不正アクセスやDDoSを受けた場合などが用意されています。
検知、調査、対応というサイクルを、具体的なログとツールを使ってどう実現するかが、リアリティのあるフローとして紹介されています。
単に「Security Hubを使いましょう」、「Detectiveで可視化できます」といったレベルではなく、どう連携し、どの順で見るのが効果的か、といった実践的な手順になっている点が素晴らしいです。
このようなシナリオベースの解説は、現場のCSIRTメンバーやセキュリティエンジニアにとって、即実務に活かせる内容であり、トレーニング資料や手順書のベースにもなると考えられます。
机上の空論で終わらない「リアルなセキュリティインシデント対応」を学べる貴重なポイントです。
書籍「AWSではじめるクラウドセキュリティ」とのすみ分け
同じくAWSセキュリティをテーマとした書籍に「AWSではじめるクラウドセキュリティ」がありますが、両者はフォーカスするレイヤーが異なります。
「AWSではじめるクラウドセキュリティ」は、セキュリティの原理原則やAWSのセキュリティサービスの基本に重点を置いた入門書であり、「どうセキュアにAWSを使うべきか?」という基本設計ガイドといえます。
一方、本書「AWS継続的セキュリティ実践ガイド ログの収集/分析による監視体制の構築」は、運用フェーズに入ったあとの検知・対応を含む監視体制の強化に重点が置かれており、「運用でセキュリティレベルをどう維持・向上させるか」という課題を扱っています。
タイトルにもあるように、「はじめるセキュリティ」と「継続的セキュリティ」で補完関係にあり、両方読むことでセキュリティ設計から運用までを一貫して理解できる構成になっています。
そのため、両方を読むことでAWSのセキュリティ対策について、より深く学習することができます。
筆者は「AWSではじめるクラウドセキュリティ」も読んでおり、感想ブログも執筆していますので、こちらもぜひご覧ください。
まとめ
AWS環境におけるセキュリティ体制の構築は、日々進化する脅威に対応しつつ、運用負荷とバランスをとる必要があります。
本書は、その中でも特にログの収集や分析に特化して、セキュアな運用を支える仕組みを丁寧に解説してくれる実務的な一冊です。
クラウドセキュリティを「構築して終わり」ではなく、「継続的に育てていく」ための実践ガイドとして、現場のエンジニア・セキュリティ担当者の心強い味方になるはずです。
手元に置いておきたい書籍なので、AWSのセキュリティ対策に関わる方はぜひ読んでみてください。